突然のことで、未だ気持ちの整理がつかずにいる。
まずは「なぜ、どうして」。
次に交流のあるファンの方のことが思い浮かんで、最後にあの鞭のことが頭から離れなくなった。
「あの鞭に後押しをしてもらった」
年始の対談で力強く語っていた後藤騎手。
負傷の箇所や程度は違えどジョッキーとして同じ境遇にあって、ともにわかちあうものがあったからこそ、譲り渡されたあの鞭。
「時計の針をすすめる」という表現を氏は以前にも用いていたが、あの鞭がまさにその役割を担ったのだ。
「お前はまだ頑張れる身体だと思うから、騎手の道へ帰れと言いたい」
人を見て、人を信じて、人を選ぶことのできる哲三騎手はたしかにあのときの後藤騎手を見て、信じて、選んだからこそあの鞭を託したのだろう。
私はいちファンとして差し出がましくも、氏が今とこれからを自責の念に駆られるのではないかと一瞬思ってしまった。
が、そう思うのはやめにする。
信念を持ち第一線で活躍してきた両人に対し、あまりに不躾な詮索だからだ。
後藤騎手をうしなって、今はただ無念の思いしかない。