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阪神スプリングジャンプ2016 アップトゥデイト、緒戦は

時は二週間ほどさかのぼる。
2月28日の日曜日。
この日阪神で行われた障害4歳上未勝利戦で、人気の一角スズカシャトルが競走を中止した。
鞍上の林満明騎手は落馬負傷、第五胸椎圧迫骨折との診断。
目前の阪神スプリングジャンプは言うまでもなく、中山グランドジャンプへの騎乗さえも絶望的という。

レースに騎乗する騎手が調教からまたがり、厩舎スタッフと一丸となって“経験値ゼロ”の状態からハードルを“跳べる”よう作られていくのが障害馬。
よってジョッキーの個性がそのまま馬に反映されるのが障害競走。

林騎手と前年の最優秀障害馬アップトゥデイトの持ち味といえば、無尽蔵のスタミナを最大限に生かし四角をゴールに見立ててロングスパートをしかける強気の競馬だ。
意外なようだが当馬は障害競走においては、いまだ乗り替わりを経験したことがない。
ここでの手替わりは、平地競走のそれ以上に懸念材料となるのではないか…

代打をつとめるのはどの騎手か。
寮馬ファイアーシチーにも騎乗している熊沢騎手か小坂騎手か。
それともヴェアデイロスほかノースヒルズの障害馬にもねんごろに騎乗している中村騎手か。
それとも、上位の騎手で、今回さしたるお手馬のいない…
あれやこれやの推察をよそに、今年度上半期二戦は白浜雄造騎手とのコンビで、と後日アナウンスされた。
陣営は迅速に、いま考えうる最善にして最良の判断を下したのだった。
とはいえ少し、いやかなり意外な線だった。
思い描いていた正反対のタイプの騎手の名が挙がったものだと。
障害騎手としては珍しく、強引に出していかず当たりのやわらかい白浜騎手が前年の障害王に何を感じ、どう乗って、どんなレースになるのか。
なんといっても障害重賞最多勝、J・G1ジョッキー。
興味も楽しみもある。
『乗りやすい馬で乗り替わりも心配ない、斤量も苦にしない』という佐々木師の前日コメントも実に心強いものだった。

そして迎えた決戦の日。

 

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無事に出せた応援幕。
100×100くらいで作り直したい…
けど思い出と思い入れと体験がつまった幕なので、あえてこのままで。
重賞タイトル3つぶんの星をつけ足した。
開門前の入場規制第一陣で入場後、すぐに受付へ並んで14番目だった。
やはり早く来るに越したことはない。

 

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いつもの首を傾げるような仕草で物見するアップトゥデイト
大障害の頃よりさらに白くなっている。

 

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止まれの号令がかかり、

 

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白浜騎手が騎乗し、佐々木師も周回に加わる。
父子揃ってとは実に珍しい(少なくとも私は初めて見た。

 

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目の前での輪乗り。
人馬ともにリラックスした表情。

5馬身差の圧勝。

中山グランドジャンプ前哨戦のJ・G2はハナを叩いたサナシオンの独走に始まり、後続に影すら踏ませぬ鮮やかな逃げ切り勝ちで幕を閉じた。
間をおいた二番手を追走したアップトゥデイトは安定した飛越でじりじりと差をつめるも、捕らえきれず離れた2着。
その8馬身後ろの3着には三番手追走のヴィーヴァギブソンと、序盤の隊列どおりに入線した。
大外枠に泣いたオースミムーンは最後方からの競馬で追い込むも4着。
得意の阪神障害コースで初めて馬券圏内を外す結果となった。

この展開は想定にあった。
もしも土がつくならばここだろうと。
スピードが肝要な阪神の障害コースでサナシオンが自分の形に持ち込めば切れ味を発揮することは分かっていたし、アップトゥデイトは昨年のこのレースを4着に敗れている(林騎手いわく大事に乗りすぎた、とのこと)。
敗因を鞍上に求めるつもりは毛頭ない。
たしかに一因ではあったのかもしれない。
しかし白浜騎手はパートナーとのコンタクトをとり、確実に次へ繋がる競馬をしたのだ。
地力でねじ伏せてくれるのではないかと夢を見たのは、信じていたから。
確実に迫っていた。
いま少しのところまで。
相手が予想以上の強さだったのだ。

サナシオンがさらに強くなったのか、地の利か、展開のアヤか、そのいずれもか。
ともあれライバルの健闘を心から讃えたい。
この名ジャンパーをJ・G1で負かせるかも知れないと思うとゾクゾクと身震いさえしてくる。
中山グランドジャンプはさらに距離が延長されるのだ。
丁寧に慎重に高く跳び、底なしのスタミナを持つアップトゥデイトにはうってつけの大舞台。
白浜騎手も「悔しさをもって本番へ向かいたい」と意気込みを口にしている。

あっと驚く金星となった昨年春のグランプリ。
二度目の戴冠も夢ではないと信じてやまない。