うまいこといえない。

うまいこといえない人がつたないなりに誰かになにかを伝えるための場所。

みんな誰かのいとしい馬

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強さと愛らしさに惚れている。
駅から競馬場へとつづく長いロードの両脇を飾るパネルのフレーズがふと目にとまった。
ほかのひとにとっては数いる未勝利、条件馬のうちの一頭にすぎないが、自分にとっては思い入れの深い馬。
競馬を続けていればそういう存在もできてくる。
障害オープン戦を観戦しに中京まで行ってきた。メイショウアラワシに会うために。

話せば長くなるが縁あって応援している馬で、会うたびに情が移って、もはや無条件でかわいいと思う。
アップトゥデイトもかわいいし、このメイショウアラワシもかわいい。
実績もルックスも全く違う2頭を、どちらもそれぞれにかわいいと思って応援している。
男馬にかわいいは褒め言葉になるのかどうか疑問だけれど、かわいいものはかわいいのだ。
“好き”に理由なんていらない。

このアラワシ、どちらかといえば男前というよりも個性的な顔つきで、オープン1勝と重賞2着3着の実績はあるものの近ごろは伸び悩んでいる。
前走の東京オープン戦は4着。
トップハンデを背負いながらも復帰戦としてはまずまずの内容だった。
次に向かうものと思っていた東京ジャンプステークスには登録せずに待機していたので、おそらく時計を出した翌週のここに来るだろうと踏んでいたのだ。
水曜日の想定で馬名を確認したあとは、もうじっとしていられなくなった。
昨年の京都ジャンプステークスを現地で観戦してから実に8か月弱。
会いたくてたまらなかった。

 

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少しのあいだ見ないうちに、アラワシはすっかり落ち着いた大人の男になっていた。
3歳のときから各地で障害を飛んでいるベテランももう6歳。
分別もついて、貫禄も出て、大人びてもくるだろう。
停止命令がかかったあとの癖だった前掻きもしなくなっていた。
装い(頭絡)も新しくなり、隣につき添って周回していたのはいつもの担当厩務員さんではなかった。
藤沢和雄厩舎を支えつづけた大ベテランの大館厩務員が6月末日付で定年という一報を目にしたので、おりしも上半期終わりというこの時期、もしかしたらアラワシ担当の方も同じ事情だったのかもしれない。
そうではなくて、何か別の事情があって今日はたまたま来られなかったのかもしれないし、もっと他に理由があるのかもしれない。

そう、好きな馬の世話をしてくれているスタッフの名前すら私はほとんど知らないのだ。
重賞を勝ち負けした、これからしようという馬には取材が申し込まれ、記事になって人となりが判明することもあろうけれど…
しかし自分が知りたいから教えてほしい、というのも違うと個人的には思っている。
以前から私が私自身の知りたいという欲求に一本線を引いている部分だ。
見えているぶんだけ。見せてくれるぶんだけと、足るを知る。
詮索しない、暴かない、深追いしない、みだりに公表しない。
もし不意に垣間見えてしまうことがあったとしても、胸の内に秘めて外には漏らさない。

控え室前で談笑する楽しそうなアラワシ陣営が撮れていたけれど、ひと同士のプライベートシーンのような写真は公の場にはあまり出さないようにしている。
基本的に競馬場で馬と一緒の写真を、というのがマイルール。
このごろは思ったような写真が撮れずスランプを感じていたが、好きな馬の写真は自然にこれでもかというほどたくさん撮っていて、不思議と出来が良かった。
ひとつの答えが出たような気がした。
写真撮りとしてはここが限界なんだろうなぁとも悟った。
競馬も写真も“好き”がモチベーション。
あえて公開するのは評価されるためではなく、“好き”を自分以外の誰かと共有したいからだ。この記事だってそう。
すっかり趣旨を忘れていたが、前走のアラワシを撮ってツイッター上にあげているひとを見かけなくて内心とても寂しかったから、今回は自ら出向いたのだった。
行けば会えるし好きなだけ撮って残せるじゃないかと。
念願は叶った。

かくして遠路はるばる立ち合った中京障害オープン戦。
アラワシは内をついてコーナーワークで距離を稼ぎ、先行力と危なげない飛越とで直線の最終障害では3番手まで詰めるも、ラストで差されての4着入線。
納得の4着でもあり、悔しい4着でもあった。
が、これはあくまで私が自分のために感じた悔しさであり、本当に悔しいのは私ではなくアラワシ陣営だ。
「自分のための悔しさを相手にぶつけてはならない」というのが応援の肝なのかな、とこのごろは感じている。

鞍上の森一馬騎手のコメントによれば、
飛びの上手な馬なので平地力が有利な置き障害よりも中央の大きな障害のほうがいい、その中で最後までよく頑張ってくれている。
とのこと。相棒を讃える言葉が心強い。
おそらく近いうちにもう一戦、状態にもよるが福島オープンか、それとも月末の小倉サマージャンプか…
小倉へはあらかじめ行く予定があるが、福島ともなれば難しい…
しかし私が行こうが行くまいが、厳しい勝負になろうが、担当さんが変わろうが(これは定かではないが)、陣営が最善を尽くすことに何ら変わりはない。
戦い終えて帰ってきた彼らの安堵の表情をかちうまプレビューのガラス越しに眺めていると、「この陣営なら何があっても大丈夫」と大きく構えていられる気がしてくるのだった。

次走を心待ちにしながら、渾身の萌えブレで締める。

 

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