うまいこといえない。

うまいこといえない人がつたないなりに誰かになにかを伝えるための場所。

まだ夢の途上

厩舎初挑戦の朝日杯だ。
新馬戦ともみじステークスを連勝して無敗で臨むのだ。
嬉しくて、胸躍って、なんて晴れがましいんだろうと、若駒たちの本馬場入場を眺めながら目頭が熱くなった。
五代母には名牝クリフジの全姉。
近親に幾多の重賞ウイナーを輩出するオーナーゆかりの母系出身。
平成最後のフューチュリティステークスに、このうえなく古き良き血統馬としてニホンピロヘンソンは名乗りをあげた。
彼らの夢は、私の夢だった。

ゲートが開く。
恐れていたことが現実となった。
先行馬がスタートで出遅れる。
ロスを挽回するために脚を使う。
彼にとってもっとも苦しい競馬となってしまった。
発馬のもたつきで体勢を崩したジョッキーがすぐさま立て直し懸命に追走するも、脚色は次第に鈍っていく。
もはや、無事に完走して帰ってこられるよう祈るのみだった。

夢を叶えるものと、夢やぶれるものたち。
悲願を達成するのはたった一組の人馬のみ。
勝者の陰には無数の敗者がいる。
しかし戦わなければ負けることもできない。
たとえ力の大半を発揮できずに終わっても、予想外の展開に翻弄されてしまったとしても、それは決して不名誉なことでも、貶められることでもない。
ただ勝負に挑んで敗れたという結果に、恥ずかしいも、情けないも、格好悪いもないのだ。
かくしてニホンピロヘンソンは数多いる2歳馬の精鋭15頭で競いあい、15番目にゴール板を駆け抜けた。

敗因はイレ込み。
パドックでは二人曳きで、気合い乗りを見せつつギリギリのところで辛抱できていたものの、騎手がまたがってから目に見えてピリピリしはじめた。
とはいえ気の強さが競馬で活きる馬だ。
長所を生かしつつ、レースごとに張りつめる馬の気持ちを落ち着けるため、何より精神面の成長を促すために陣営がさまざまな調整を行っていたことを私は知っていた。
予期した展開のひとつであり、最善を尽くしたうえでの結果だ。
思い描いたもっとも素晴らしい結末からはかけ離れていたが、心は晴れやかだった。
なぜなら彼には未来があるのだから。
たった一度のレースに負けたからといって、すべてが終わるわけではない。
苦い経験は教訓として生き、彼自身を育てる糧となる。

未来しかない。
まだまだこれから。
がんばろう、ヘンソン。

 

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