うまいこといえない。

うまいこといえない人がつたないなりに誰かになにかを伝えるための場所。

きららかに、あざやかに。サウンドキアラの挑戦

ヴィクトリアマイルには、キラキラしたイメージがあります。
新緑と咲き初めの薔薇を濡らす雨露が陽の光をうけて輝く季節に、今年は最高にキラキラした女の子が夢の舞台へと連れていってくれました。
光り輝く女性の名を与えられた彼女は自条件の1000万下を勝ちあがってすぐに、除外のピンチも乗り越えて、初の重賞出走をこのレースで挑むこととなりました。
阪神ジュベナイルフィリーズのときは除外の憂き目にあったので、G1出走は願ってもない好機です。

彼女の身の上話を少し。
母はフィリーズレビューを勝ったサウンドバリアー
全姉のサウンドラブリーは惜しくも未勝利に終わったあと繁殖にあがっています。
どちらも愛らしい芦毛の馬でした。
二番子として生まれたサウンドキアラは新馬戦を快勝し、数いるディープインパクト産駒の素質馬として期待されていました。
ところが競馬とは、血統や秘めた能力だけではなかなかうまくいかないもの。
相手なりに走る堅実さと安定感はありましたが、実戦へいってテンションがあがる癖もあって、少しのあいだ足踏みがつづきました。
そのポテンシャルの高さゆえいつかは必ず重賞で活躍してくれるだろうという確信はあったものの、さあいつになるかしら、今年中かな来年かなとのんびり構えていたのです。
だから、ヴィクトリアマイルへの特別登録に彼女の名前を見つけたときは思わず「あっ」と声が出ました。
思ったよりもずっと早く夢が叶うんだ、と。
ついにあのキラキラした場所へ行くんだ、と。

好天に恵まれた府中のターフにファンファーレが響き渡り、選び抜かれた精鋭たちがいっせいにゲートを飛び出していったのを、私は固唾をのんで見守っていました。
格上挑戦、春菜賞以来の東上、テン乗り、外枠からの発走と厳しい条件がいくつも連なった中、それでも彼女は決して“負けなかった”。
持ち前の先行力を枠の不利で削がれながらも、勝負を賭けた最後の直線、外から懸命に脚を伸ばして一矢報いたのです。
7着。
はるか前方で勝ち馬たちがゴール板を駆け抜けていました。
それでも。
人馬陣営が最善を尽くして掴みとったのは、今考えうる最高の結果でした。
…もうちょっと内だったら。もしかしたら。
競馬には禁句だけれどありがちなタラレバを思わなくもありませんでしたが、それは来年また考えようと自然に思い直しました。
無事ならば、今とこれからを見つめながら未来を想い描けるのです。

競馬を愛するものとして、馬に、人に、レースに、私は夢を見ずにはいられません。
私の夢は、縁ある人馬の無事と最善。
もちろんどのレースも等しく特別ですが、彼らが目指すのならば、無事と最善の延長線上には必ず大きな挑戦があるんだということを何度も見せてもらってきました。
それがG1の壁に挑みつづけたサウンドバリアーであったり、勝ちあがりと生き残りをかけて戦いつづけたサウンドラブリーの姿でした。
サウンドキアラは彼女たちの面影をよく受け継いでいます。目元が本当にそっくりなのです。
かといって、お母さんとお姉さんの果たせなかった悲願を彼女に背負わせるつもりはありません。
彼女は彼女なのだから。
とても愛らしい鹿毛の女の子。
でも、母と姉を見ていたからこそ、よりいっそう愛おしい。
積み重ねてきた年月があるからこそ、胸が熱くなる。
私の心と体を突き動かしたのは、脈々と受け継がれてきた血と縁への敬愛の念でした。
それはこれからも、きっと。

彼女はもっと強くなる。
この日を糧に、必ず。
今日よりも、今年よりも大きくなって、ふたたびこの舞台へと帰ってくることでしょう。
きららかに、あざやかに、キラキラと光り輝きながら。

 

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