うまいこといえない。

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ホウライアキコ入障。才能に二度出会う。

西の夏競馬開催を告げる7月最終週。
小倉サマージャンプが行われるまさにその数時間前、もうひとつのメインレースが静かな注目を集めていた。
どうか止まらないでと、きっと見守る誰もが祈っていたであろう障害未勝利戦。
かつての小倉2歳ステークス覇者は小倉の地で鮮やかに返り咲いた。
 
ホウライアキコ、障害デビュー。
悩める重賞ウイナーの次走を示唆するニュースは瞬く間に広がり、ほどなく障害試験を94秒5という破格の走破時計をもってクリアしたことはさらに大きな話題を呼んだ。
重賞を2つも勝っている5歳牝馬の進路としては極めて珍しく、その理由を「試しに障害を飛ばせてみたら抜群にうまかった」とトレーナーが話したというのだから、ハードル界に久々の女傑誕生かといやがうえにも期待は高まった。
またスプリンターとしての彼女を知る競馬ファンの間では賛否両論が入り混じった。
いつのときも入障をめぐる声というのは、そう変わるものではない。
 
障害競走に新馬戦が設けられていない以上、来た方向を転換しての未勝利戦からしか参戦の道はない。
そのためには厩舎の方針とノウハウ(調教に参加可能な障害騎手の存在と常日頃からの信頼関係)、可能性を見抜く目、そして何より前へと進む勇気が必要。
もちろん調教と実戦は別物なので、レースへ行くのはほとんど賭けに近いと思われる。
困難な状況下にあってなお、ひとが馬を信じたからこそ私たちは新たな才能に出会えるのだ。
 
かくしてホウライアキコは二度、再び才能の花を開かせた。
平地競走で見せた天性のスピードそのままに繰り出される流麗な飛越。
追跡者に影すら踏ませず、ついには7馬身差の逃亡Vで魅せたのだった。
手綱をとったのは先日1000勝を達成した平障二刀流の大ベテラン、熊沢重文騎手。
勝者たちが帰還した瞬間、ウイナーズ・サークルは興奮とあたたかな祝福にわいた。
 

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課題も見えた。
初障害ということもあり、後半にやや危うさを感じさせた飛越の質とスタミナ面の懸念だ。
レースグレードが上がれば距離も延びる。
が、これらは経験を積むことによって、鞍上とのコンタクトによっても改善していけるだろう。
私が目の前で観ていて一番感じたのは、彼女自身のありあまるセンスとこれからへ向けての可能性だった。
走るごとに、飛ぶごとに、きっとうまくなる。
確信というよりも、そうなってほしいという願望だった。
この恐るべき才能にふたたび出会えた驚きと喜びとときめき、さらなる進化を見守っていけることへの感謝の念に他ならなかった。

入障は決して嘆かわしいことではない。
リスクは確かに高い。
不安で怖くて心配で、ひとによってはあまり喜ばしいことではないと感じるかも知れない。
しかし戦い抜いて生き残ってほしい、願わくばもう一度輝いてほしいという、馬に携わるひとびとの切なる希望であり可能性のひとつとしてあるのが障害競走なのだと思う。
障害未勝利戦は、いわば、二度目のメイクデビューなのだ。
馬を信じた陣営を、馬に携わるひとびとを、勇気ある決断を、そして何よりも馬自身を。
いち競馬ファンとして私は信じて託したい。

この道を選ぶ人馬の無事と成功を心から祈り、これからの活躍を楽しみにしている。