うまいこといえない。

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オジュウチョウサンの新たなる挑戦について

もうすでにお聞き及びだろう。
障害界の絶対王者オジュウチョウサン武豊騎手を背に平地競走の開成山特別への出走を予定している。


オジュウチョウサンといえば既存の障害馬らしからぬ、まるで肉食獣が獲物を狙うかのような野趣あふれる走りが魅力のひとつ。
「いま平地走ってもそこそこやれるんじゃないの」とは期待を込めて囁かれていたこととはいえ、これまで陣営は国内の障害戦でのさらなる記録更新を名言していたので、まさか今になってという思いだった。

いま平地競走?
開成山特別ということは、凱旋レースともなる来月の東京ジャンプステークスは回避?
主戦の石神深一騎手ではなく?
この挑戦の先には何がある?
と。

障害馬が平地を叩く例そのものは近年だとルールプロスパーやアポロマーベリックらもとっていた戦略で別段珍しいことでもないのだが、オジュウチョウサンにとってこれは前哨戦ではなく、以降も平地競走を使っていくための権利とりの一戦だというのだ。
そのためにオーナーたっての希望で武豊騎手を配したという。
これだけの名馬との挑戦に、名手とて胸躍るのも当然といえば当然だ。
目指すは平地の大レース。
陣営が見据える先にあるものは、G1だ。

挑戦は、成功と失敗の可能性を同時にはらむ。
私は障害ファンとして、平地競走に挑んだオジュウチョウサンにジャンプレースではないステージで土がついてしまう姿を想像したくないのだろう。
異例の戦いによって、これまで培ってきたジャンパーとしての本来のリズムが乱れてしまうかもしれない。
精神的にもなんらかの影響を及ぼすかもしれない。
絶対王者としてのオジュウチョウサンを失うかもしれないのが、とても恐ろしい。
しかし。
競馬ファンとしては見てみたいし、この挑戦を肯定したい気もしているのだ。
 
ワクワクしているひとは期待をすればいい、しかしながら挑戦のすべてを必ずしも讃えなければならないわけではない。
いろいろな声があがってしかるべき。私は静観しよう。
一報を受けた直後はそう考えていた。
ほどなく公開された会見の中で、この挑戦はオーナーの意向であることが明らかになった。
『平地の走りを見てみたい。』その先にあるのは重賞、G1。
では、さらにその先には。
オジュウチョウサン種牡馬にしたい。』
その夢は、障害競走を愛するファンの悲願でもある。
かねてより語られていた夢へ向かって、夢を現実のものとするために、重く難しく厳しいであろう一歩を今まさに踏み出そうとしているのだ。
オジュウチョウサンを一番に想い、オジュウチョウサンを一番によく知る彼らが、オジュウチョウサンのためにもっとも時間をかけて、対話を重ねて導き出した結論だ。
石神騎手が跨がらぬことも熟慮に熟慮を重ねてのことなのだろう。
一枚岩だった陣営のこと、ないがしろにしての降板では決してないはずだ。
なぜなら、私たちはずっと見てきた。
だから。
「でも通用しなかったら、また戻ってきて障害に専念すればいいんだから」とは軽々しく言いたくなくなった。
現実的にそうなることも可能性のひとつではあるが、始まる前から終わることを考えるのは、否定ではないだろうかと。

彼らは本気だ。
ひたむきに夢を追う者は強く美しい。
人馬の健闘を心より祈る。競馬ファンとして。障害ファンとして。

 

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