うまいこといえない。

うまいこといえない人がつたないなりに誰かになにかを伝えるための場所。

力を尽くして輝く

女王とはこんなにも強かったのか。
スッと並びかけられたとき、心臓を掴まれた心地がした。
馬なりで抜き去られて悟ってしまった。
ここからどう抗っても、今日はこの馬には勝てないと。
しかしレースはつづく。
逃げ粘るトロワゼトワルを捕らえると、背後から前年の覇者ノームコアが迫ってくる。
長い直線だった。
がんばれ、あともう少し、がんばれ。
祈りながら声援を送る。
完璧な競馬だった。
昨年とは何もかもが違っていた。
大外というハンデをも克服して先行し、最後まで人馬一体となって戦い抜いた。
サウンドキアラは二度目の挑戦を2着で終えることができた。
勝ち馬とはじつに4馬身差。
悔しい。かなわなかったことが。
嬉しい。彼女の成長が。
複雑な気持ちだった。
勝って嬉しいときはうまく言葉にならないのに、負けて悔しいときは語り尽くせないくらいいろんな言葉が瞬時にわいて出てくるのだから、不思議なものだ。
でも、どれもしっくりこない。
G17勝の偉業を達成し悠々と凱旋する女王を眺めながら、強かったなぁ完敗だったなぁと、なかば放心状態でいた。
こんなに強いのになぜここに来たんだろうとすら思えたが、そんな負け惜しみをすぐにかき消したものがあった。
「アーモンドアイと一緒に出られるのは光栄なこと。」
笑って話すトレーナーの言葉だった。
そうだ。
だからこそ私も、相手にとって不足なしとこの日を心待ちにしてきたのだ。
かなわなかったのは相手が強かったから。ただそれだけのこと。
タラレバがよぎってしまった自分が恥ずかしく、勝負の世界に生きる人馬の凄みと高潔さを想い、ふたたび震えた。

サウンドキアラに。
厩舎陣営に。
彼女たちにG1を勝ち取ってほしい。
彼女たちの戦いが報われてほしい。
昨年のこのレースで、その夢が叶うのは今日だと確信した。
一年間にわたる再挑戦は無事に終わった。
夢やぶれたが、夢にまた一歩近づいた一日だった。
そしてこれからまた一年間力を蓄え、一年間夢をあたためる。
競馬とは、勝つことは、なんと難しいのだろう。
だからこそ惹かれる。
力を尽くして輝く、ひたむきな姿に。

今年のヴィクトリアマイルも忘れられないレースとなった。

 

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