うまいこといえない。

うまいこといえない人がつたないなりに誰かになにかを伝えるための場所。

近づいて遠ざかって、それでもまた

夢のような時間だった。
指定席をとれず自宅で迎えた、わたしの特別なマイルチャンピオンシップは。
8歳にしてG1初挑戦の切符をつかみとったベステンダンク。
ふたたび輝くべく巻き返しをはかるサウンドキアラ。
厩舎としては二頭出しというこのうえなく晴れがましい舞台を、人馬とも、陣営一丸となって全力で駆け抜けた。

わたしの見たかった光景がそこにはあった。
今までのがんばりが報われたのだ。
「ここに出る」というかたちで叶った夢は、たとえきょうは勝利という結果で実を結ばなかったとしても。
鞍上のルメール騎手をして「めちゃくちゃ強い」といわしめたグランアレグリアのように、強い馬が強い競馬をしてかっこよく勝ち負けするのも素晴らしいけれど。
たとえば、勝つのは難しいとしても前を向いて自分のできることに徹していくとか、最初から最後までレースを諦めないとか、次とこれからのために最善を尽くして道筋をつなぐとか。
地味で、地道で、厳しくて、苦しい闘い。
そういうのも競馬だ。そういうことが、わたしにとっては競馬だ。
だから、レースが終わったから夢は終わったなんて、そんなこと。
もう馬が終わっただなんて、そんなこと。
終わりは彼女たちが決めるのだ。
夢が叶うかどうかは、彼らが決めるのだ。
そのために走った。これからも走っていくだろう。

届かない夢はある。叶わない夢もある。
近づいたけれど、また遠ざかっていった。
でも目指さなければ何にもならない。
何もしないのは、最初から負けているのと同じこと。
負けても遠ざかっても、厳しくても苦しんでも、何度でも立ちあがって戦いにいける。
わたしが愛してやまない人馬は、そんな強い面々だ。
きっとまた走り出していくだろう。