うまいこといえない。

うまいこといえない人がつたないなりに誰かになにかを伝えるための場所。

いきつけのお店を卒業したお話

一生ここでしか切りたくないくらいお気に入りの店があった。
だから電車で通って高い施術代を払ってた。
そこで髪を切ってもらったとき、やっと自分らしくなれたと感じたから。
気に入った髪型を維持したくて、美容師さんを指名もして、わたしにしてはがんばってた。
コロナ禍もあって気軽には行けないから3ヶ月に1回くらいのペースで。
それを暗に「もうちょっと来て」と言われて、なんだか気持ちの糸が切れてしまった。
ベストは1ヶ月。せめて2ヶ月に1回と。
あいだに自分で前髪切られてしまうのも気になったみたい。そりゃそうか。
あと、せっかくきれいにカットしてるんだから髪にもいいことしたほうがいいよってことでシャンプーとトリートメントをおすすめされた。
施術代より高かったんじゃないかな。サロンおすすめのシャントリ。
市販のシャンプーは洗浄力が強すぎて洗剤で洗ってるのと一緒なんだって。
でもわたしは気持ちと財布と相談して、納得して市販のシャンプーを使ってる。
その日は丁重にお断りして、その後も買うつもりはなかったから、どうしたもんかと考えてた。
モヤモヤしてた。
なんか行きづらくなっちゃったなぁって。
1~2ヶ月ペースで通ってサロンおすすめのやさしいシャンプー使えたらいちばんいいんだろうけど、髪だけに手間とお金はかけられない。
毎日、ご飯食べて服着てメイクして。
それだってちょっとずつ気持ちに折り合いつけながら妥協してる。
願いはぜんぶは叶えられない。
ほしい服にコスメにシャンプー、ぜんぶ叶えたら暮らしじゃなくなる。余裕がなくなって自分じゃなくなる。
髪は、そろそろすっきりしたいなぁと思いたったときにお気に入りの店で切ってもらうのが最高の幸せだった。
わたしはそれでよかった。
それでも足りないよって言われちゃうのなら、わたしはお店にとっていいお客さんじゃなかったってことなんだろう。
髪に対する情熱が違うんだ、最初から。
お小言や嫌味で言われたんじゃない。営業はちょっとあったかもしれないけど。言葉も態度もやさしかった。
よかれと思って、ベストだからと、やさしくしてもらった。
だからなおさら、ああこれはもう価値観が違うんだなぁって思い知った。
わたしはそこにそれだけはこだわれないなぁと。
何食わぬ顔して髪だけ切りに通ってもいいんだろうけど、気づいてしまった今となればそれもちょっと違うかな。
だからありがとう、さようなら。

そろそろ切りたいなぁと思ってた矢先に、自転車で通える近所によさそうなお店を見つけた。
価格帯も合って、仕上がりも申し分なかった。
髪を切るって、未練もわだかまりも一緒に切って捨てるみたいだ。
しばらくここに通ってみようと思う。
そう決めたらモヤモヤが晴れて目の前が明るくなった。
ああ、髪が軽い。