うまいこといえない。

うまいこといえない人がつたないなりに誰かになにかを伝えるための場所。

かがやく軌跡

昨年の5歳で勇退するプランもあったと、どこかの記事で見た。
無事で元気なうちにお母さんに。
気持ちはわかる。
重賞を3つも勝った馬。
陣営にとっては宝のように大事な馬。
それでも挑戦していく道を選んだ。
一度終わりに向かっていたことをふたたび決意を新たにやっていくというのは、漠然と想像するよりもはるかに大変なことだろう。
この一年は、まだ彼女を見ていられる嬉しさとともに道のりの険しさを思う気持ちがあった。

競馬というのは難しい。
強い競馬を完璧にしても勝てないときもあるし、逆の場合でも思いがけず勝ったりもする。
ただひとつ言えるのは、いいときもそうでないときも、誰もが最善を尽くして戦う。勝敗はそのうえで決する。
だからレースとは自分との闘いなのかもしれない。
今年のマイルチャンピオンシップは、自分との闘いをつづけてきたサウンドキアラと陣営の、この一年の集大成として選んだG1の舞台だった。

8着。
結果だけを見れば完敗。
でもずっと見てきた。2歳の新馬戦から。
この馬はいずれ重賞を勝つ馬だと確信した初陣での興奮。
ほんとうに重賞を勝ったときの幸せ。
念願のG1に出走かなったときの喜び。
絶対的な女王にかなわなかったときの悔しさ。
なかなか結果がともなわなかったときの苦しい競馬。
これは復活なんかじゃない、はじめから沈んでなんかいなかったんだと言わんばかりだった前走のスワンステークス
ぜんぶ覚えている。だから知っている。
今まで積み重ねてきたことが彼女自身をここへ連れてきた。
長い長い延長戦を経てついにここまで来たのだ。
この結果は、すべての証明にほかならなかった。

昨年のヴィクトリアマイルを惜敗したときが全盛期で一番強かったと、たぶんみんな口をそろえて言うんだろう。
違う。彼女はいつでも今が一番充実している。いつだって今が全盛期だ。
今を生きて走っている。
衰えはまだ見えない。

マイルチャンピオンシップ、6歳秋の挑戦。
直線を向いたとき、横一列に並んだ馬群のまんなかに彼女の顔があった。
瞳をきらきらさせながら、そのまま突き抜けてくるんじゃないかと夢を見た。
今日もやりきった。
サウンドキアラの6度目のG1は、悔いのない、正攻法のいい競馬だった。

 

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