うまいこといえない。

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青天を衝く、とは

今年一年癒された。
コロナ禍でスタートが遅れてしまったのが口惜しい。
観てるととにかく心が落ち着いた。
大河ドラマを観ていてこんなに安らいだのは初めて。
週刊連載マンガのページをワクワクしながらめくっていたような昨年の麒麟がくるとはおもしろさのベクトルがまるで正反対のドラマだった。
青天を衝けは、ホームドラマ
人間・渋沢栄一とその家族や仲間たちの物語。
なので歴史ものである大河には毎年ほぼある、おごそかでカタい感じがなかった。
令和の価値観にもフィットするよう易しくかみくだかれていて、史実と創造が織りなす優しいストーリー。
朝ドラのような軽やかさと爽やかさをあわせもつ大河ドラマ、それが青天を衝け。

栄一は聖人君子としては描かれていない。
どころか、いち個人としてはけっこうしくじっている。
思想で盛りあがってテロを企てたり、妻子を実家に残して上京したと思ったらとっさまからの餞別の金も使い果たしどこで何してるのかわかったもんじゃないし、かと思えばお尋ね者になってるし、せっかく就いた国の仕事も事後報告でいきなりやめてくるし。
浮気はするし、愛人との間に子どもはこさえるし。
子育て丸投げして失敗してるし。
栄一は家族や仲間に自分の弱いところやだめなところ、どうしようもないところをありのままさらけだす。
強がったり、取り繕ったり、嘘をついたりは絶対にしない。
どんなにみっともなくても相手にほんとうの気持ちをぶつけるし、気持ちをちゃんとみえるかたちにして、行動で示す。
家族や仲間はそれをちゃんと赦したり受け入れたり、叱咤したりする。愛しかえす。そのくりかえしで話が進む。
人間の描きかたが好き。人と人の関係、やりとりが好き。家族のありかたが好き。
生々しくも美しく、血の通ったひととひとのかかわりが描かれていたと思う。
「完璧な人間なんていない、失敗もする、それでいいから生きていこう」という赦しがメッセージとなって心地よかったのかもしれない。
愛妻の千代も「強く見える者ほど弱き者です。弱き者とて強いところもある。人は一面ではございません」と言っていた。
この物語の登場人物はみんな、序盤のそこに回帰するのだ。

栄一には帰る家があって、家族を守りたくて、家族を愛している。
その延長上に仕事と世の中づくりがある。
きっと人間が大好きな人なのだ。
同時に、組織や国に対する大きな愛ももっている。
家族と同じくらい日本を愛している。
それが周りの人にとってはものすごくたいへんなんだけど! というところも描かれていてよかった。

晴天を衝くとは、青春をつらぬく、だったのかなという解釈。
山のいただきで天命を悟った若かりし日の栄一が、心のままに生涯を駆け抜ける物語。
青くさくも、軽やかで爽やかな一生だった。