うまいこといえない。

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天才に、時代が追いつく「シャーマンキング2021」

早すぎた天才。
その名は武井宏之
シャーマンキングのリメイクをぜんぶ見終わった。
実は二十話くらいまでは見てたんだけど、途中リタイアしていた。
木刀の竜とまん太の出雲旅のちょっといい話「旅人とサービスエリアの談話」が割愛されたのを受け「ああ、やっぱり質のいいダイジェストなのね」とガッカリしてしまったのだ。
が、原作への熱き思い入れもほどよく薄れ、ところどころ記憶があいまいな状態で見てみたら案外悪くないと思えたから不思議だ。
評価を邪魔するのは、思い出の美化と強い思い込みなのかもしれない。
忘れていたから楽しめた。思い出しても楽しめた。これでいいのだ。
また原作を読み返したらいろんなことを思い出すんだろう。
伝説の打ち切り後に出た完全版は、実は未読だったりする。
だから「寝るぞー!」「プリンセスハオ」「蜜柑」以降のエピソードは新鮮な気持ちで見られた。
十祭司との戦いはソードマスターヤマト感がどうしても否めなかったが、意味が通るようにうまくまとまってたのでぜんぜんアリ。
展開が早すぎて情報と感情の処理がなかなか追いつかなかったけど。
なんせ公式によるシャーマンキングRTAである。
ダイの大冒険とおなじ100話、否、せめてもうワンクールあれば。

ほぼ前と同じ声優陣が揃ったのはすごい。
中の人が声優業退いててキャストの変わった葉もまったく違和感なかった。プロはすごい。
蓮とホロホロあたりは前回のキャラを意識して演じすぎてるのかなと感じたけど、聴いてるうちにそういう違和感もなくなった。プロはすごい。
あと今のアニメって作画のムラがほとんどないのね。作画崩壊もない。すごい。
昔は2〜3人交代で絵コンテ描いてて、週によって絵柄が明らかに違ってた。絵描きの個性爆発だ。
昔のジャンプアニメあるある、原作に放送が追いついてからのオリジナル展開も勢いがあった。
当時はとんでもアニオリがアニメ化の醍醐味でもあったのだ。
そう、マンキンのアニオリはアツかった。
おもしろかったよゲートオブバビロン。超解釈の超巨大化バトルに一時休戦エンディング。
キャラソンもよかった。アルバム買ってめちゃくちゃ聴いた。歌の万辞苑。今でも聴く。
序盤のヤマ場で旧オープニングOver Soulが流れて、ものすごく嬉しかった。
Northern Lightsもどこかで聴きたかった。

十数年前に完結した作品をブラッシュアップするのは大変だったろう。
ところどころに苦労のあとがうかがえる。
進撃のエレンなんかがそうだけど、今は何もかもを悟り運命を甘んじて受け入れた完全覚悟完了キャラがかっこいいとされる風潮。
悩むことをよしとする、迷うからこそ強くなるという、心の強さを自らに問いつづける独自の価値観がこの令和の時代にどう受け入れられたのかは気になるところ。
逆に時代がやっと追いついてきたかのような台詞にもハッとさせられた。
「中庸は現実の前に無力なんだよ」
とはアバさんの言だが、十数年経ってようやく時代がというか、世の中の理解と実感がともなってきたのかと鳥肌が立った。*1

SNSがすべてを可視化してしまう現代、人やものや属性を端的に言いあらわす便利な言葉があまりに増えすぎてしまった今、アンナはツンデレだし、ペヨーテはヤンデレだし、幹久も毒親とか言われてしまうのだろう。きっと。
とはいえチョコラブとゴーレム関係なんかは背景があまりに暴力的すぎてアニメ化は不可能に等しいと思ってたから、それができるようなひらけた時代になっているのかもしれない。
そう考えると悪いことばかりでもない。

「本物の楽々はきっちり頑張らんと味わえん」
「大切なものは心で決める」
「やったらやり返される」
「心が無理って思ったらその時点で負け」
「長生きするためじゃなく、ちゃんと死ぬために生きている」
「人を憎むことは自身を憎むこと。赦せば自身も救われる」
シャーマンキングは、多感な時期に心の据わりかたを教えてくれた作品だ。
ちなみにいちば感銘を受けた台詞はラキストの「正義が勝つのではない、勝ったものが正義なのだ」。ですよね〜。
マルコとラキストのくだりはもっとじっくり見たかったなぁ。

ちなみに萌えと燃えまっただなかの時の最愛のキャラがハオだった。
強すぎて悲しい。
最大最強のかまってちゃんだ。
そんな彼を単にラスボスとして倒すのではなく、力と存在を超えるのでもなく、受け入れて赦す。
主人公が葉くんで、ハオが兄ちゃんだったからこそ、唯一無二のエンディングに至った。
みんなに特大の愛をぶつけられてうろたえるハオ様いいよね…
孤高の王様から囚われのお姫様へ、そして母と友を恋う少年へと戻っていく演技、声のゆらぎが圧巻だった。
高山みなみさんはよくぞここまでハオを引き受けてくれたよ…
史上もっとも愛されたラスボスなんじゃなかろうか。ハオ様。
そう、だからこそシャーマンキングは傑作なのだ。

やっぱ完全版読もう。知りたいことがいろいろある。
アニメの続編も…
う〜ん、見るかもしれない!

 

 

 

 

*1:中庸といえばタクティクスオウガのNルートもあわせて思い出す。
どっちつかずで救いがないニュートラルルート。
分岐してからのチャプタータイトルもずばり「すくいきれないもの」だ。