うまいこといえない。

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春はまた来る。アップトゥデイト、三度目の阪神スプリングジャンプ

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もはや説明がつかない強さだ。
中山グランドジャンプを制したのち、彼の中でいったいどのような変化があったというのだろう。
私がその片鱗を感じたのはJ・G1ではなく、そのふたつ後の東京ハイジャンプだった。
もしかすると、とんでもない怪物ができあがりつつあるのかもしれない。
直線を向いて幾度となく接触してくる空馬を気合一閃、弾き飛ばして完勝するさまを見ながら薄々と戦慄を覚えていた。
予感は暮れの中山で的中する。
応援馬のはるか9馬身かなたでゴール板を駆け抜け春秋障害王者の座をもぎとったその馬を遠くに眺めながら、彼らがこれから歩むであろう道なき道に想いを馳せた。
身震いすらしながら、悔しさをかみしめながら、絶望に限りなく近い敗北感さえ感じながら、それでも私は嬉しかった。
倒すべきライバルが歴代最強レベルの障害馬であることに興奮を禁じえなかった。
夢を託した馬が偉業を成し遂げられると信じてやまなかったからだ。
応援者としてその過程を見てゆけることが、障害ファンとして競馬ファンとして同じ時代に生を受けた名馬の切磋琢磨しあうさまを見届けられることが、たまらなく嬉しかった。
オジュウチョウサン、相手にとって不足なし。
こうしてアップトゥデイトの新たな挑戦がはじまった。

迎えた阪神スプリングジャンプ
逃げるドリームセーリングを見ながら二番手を追走するも、隊列は思ったよりも短く、ペースは落ち着き、背後からぴったりとマークしていた勝ち馬に難なくかわされる。
結果は2着。4馬身差の完敗だった。
さらに4馬身離れてタイセイドリーム、サンレイデューク、クリノダイコクテンがそれぞれ僅差で入線し、二強が突き抜けていることをあらためて証明する結果となった。
しばらくは新旧王者の覇権が続くことだろう。

本音を言えば、もっと縦長の展開になってほしかった。
もっとハイペースとなって、あのスタミナが活かせる展開を望んでいた。
行くべき馬が思ったよりも行かなくて馬群が幾度も詰まったとき、なぜ行かないのか、他馬が行かなければ自分で行ってもいい、彼はそれができる馬なのだからと、やきもきしてしまった自分がいた。
好敵手に及ぶと信じていたからこそ、悔しかった。
レース後も終わったことばかりを考えていた。
たしかにそれもひとつの事実なのかもしれないが、タラレバであり結果論だ。
真実はレース結果の中にある。
オジュウチョウサンが強かった。
アップトゥデイトも強かったが、及ばなかった。
4馬身。たった4馬身。はるか4馬身。
だからこそ悔しかったのだ。

もしもオジュウチョウサンが本格化しなければ、アップトゥデイトは類い希な春秋障害王者としてハードル界に君臨しつづけたことだろう。
だけどそんなことは絶対に言わない。
私の望むところではないからだ。
オジュウチョウサンの底知れぬ強さには、畏怖と同時に惹かれてやまない何かがある。
彼自身からわきあがる力の根源が未知で謎だからこそ、従来のハードル名馬とは一線を画した型破りな闘いぶりから目が離せないのだ。

私にとってそれ以上に底知れぬ力と可能性を感じさせてくれるのがアップトゥデイトという存在だ。
彼を想うとき、いつも不思議と不安というものは全く感じなかった。
あったのはたった一度だけ。大敗を喫した新潟ジャンプステークスの時のみだ。
いつのときも、胸の奥底からわきあがるじんわりとした自信と信頼で心が満たされる。
必ず雪辱なる。大一番につながる競馬ができる。
決戦前夜も、レース直前も、自分でも驚くほどにいいイメージしかわいてこなかった。
もちろん次とこれからを見据える今も。
単なる盲信なのかもしれないし、あくまで精神論であり願望であり、いちファンの見解でしかない。
しかし彼がハードルと、そしてライバルと対峙した時に見せる確固たる力がそう信じさせてくれることもまた、私にとっての真実。
それこそが、説明のつかない彼自身の強さなのだろうと思う。

この闘いを目の当たりにして確信はより強まった。
アップトゥデイトはまた勝てる。勝つための競馬ができる。
衰えは全くない。
次かもしれない。その次なのかもしれない。
いつか必ず、きたるべき時がやってくる。

 

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