うまいこといえない。

うまいこといえない人がつたないなりに誰かになにかを伝えるための場所。

小倉競馬場へ行きたかった

「あきやんの引退式、小倉なのか。」

tospo-keiba.jp


ちょっと意外だった。
そんな心の声が漏れたのは、阪神競馬場でやるとばかり思っていたから。
小倉。いいじゃないか小倉。
小倉は好きな競馬場だ。大阪から行きやすくて、食べものもおいしく、遠征との相性がいい。
気がつけばわたしは名門大洋フェリーの会員ページを開いていた。
予約シミュレーションをしてみる。
なんと満席だ。いや正確にはデラックスルームしか空いてない(2月11日夜の時点で)。みんなわりと乗るのね船。卒業シーズンだからかな。

フェリーがだめなら新幹線で日帰り。
アカンめっちゃ高い。そもそも今は旅行をしている余裕がない。家も家族も大変だし。

なら現地はあきらめて、阪神競馬場だ。
朝イチで並んで先着順に配布されるメモリアルリーフレットなるものをもらったとして、中継が流れるであろう最終レースのあとまで場内で待機する。
一日仕事だ。もちろん合間に見たい人馬はいるだろうけど。
それにしても、そんなに長い時間を場内で過ごしていられるだろうか。肉体的にというより精神的に。
昔はしょっちゅうやっていたというのに。それが楽しかったというのに。

もっとも引退式の模様はYouTubeライブ配信されるらしいし、遠くない未来で調教師秋山真一郎には関西の競馬場で会えるわけだから、生の引退式に立ち合えなかったとしてもそこまで残念がることはない。
……まあ、いいじゃないか。
納得した瞬間、わたしの心の中の「わくわくさん」が死んだ。
一瞬を尊ぶ魂が。好きな人馬と同じ空気を吸い、同じ時間を共有する喜びを追い求める心が。ヲタクマインドが。
現地リアルタイム至上主義だったわたしの魂はコロナ禍で瀕死の重傷を負った。
サウンドキアラのヴィクトリアマイルを観に行けなかったのが致命症となって、個人の想いの力だけではどうにもならないことが世の中にはあると知り、あきらめることを覚え、何度もそうしているうちにやがて競馬から離れていく一因となった。情熱の喪失である。

だけど今はこうも思っているのだ。
今まではどうにかできていたからどうにかしていた。心も体も金も、ない力をふりしぼって、やっぱりどこか無理をしてきたのだ。
もしもコロナ禍がなかったとしても、わたしは似たようなタイミングで競馬から離れていたと思う。まったく逆の理由で。
情熱の喪失でなく、オーバーワークで。
擦り切れて燃え尽きて疲れ果てて、気力も体力も金もすっからかんになって、廃人同然になっていたと思われる。
まあそれは極端なたとえだけれど、もし想いが気合と根性で叶いつづける世界のままだったなら競馬そのものを嫌になっていただろう。
今よりもifのほうが悪い。いいかたちで卒業ができた、と言っていい。

現実問題、今は小倉へは行けないと頭の中ではわかっていた。
だけど行くことを思い描いて経路を調べていた。
それが秋山ジョッキーのラストライドと式典のためというのが、われながら不思議でおもしろかった。
人としても騎手としてもいわゆる「おもしれー男」。
ストライドはメイショウウタゲのエニフステークス、というのはこれからもしつこく主張していきたい。
アイアムカミノマゴ阪神牝馬ステークスの衝撃も捨てがたいけれど。