うまいこといえない。

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メイショウアラワシ勇躍の夏。小倉サマージャンプ

小倉サマージャンプを観に行ってきた。
一年ぶり二度目。
小倉競馬場というハコを私はとても好きで、何かしら目的を作ってはほぼ毎年のように出かけている。
タムロスカイが出走する小倉記念を観に。
負傷療養中の佐藤哲三騎手(当時)の近況報告を聴きに。
一年あいて、アップトゥデイトの小倉サマージャンプを応援しに。
そして今年は、メイショウアラワシを応援しに。
以前述べたようにこのメイショウアラワシという馬を私は縁あって応援していて、本当は応援幕のひとつも作って出したいところなのだが、今後の重賞なり暮れの大一番なりでいま幕を出しているアップトゥデイトとの二択を迫られたときに頭が割れるほど悩むことうけあいなのであえて自重している。
いいのだ、すべてのメイショウ馬を応援する素敵な幕が出ていたし、今後も出るだろうから…。

オープン戦を勝って臨んだペガサスジャンプステークスは4着。
前走で大障害コースの一部を経験し入念なスクーリングを経て挑んだ中山グランドジャンプを3着。
よくいえば堅実で大崩れしない、しかし、もうひといき勝ちきれない…
そんな彼が主役に躍り出る最大の好機がやってきた。
今春のJG・1馬オジュウチョウサンは放牧。
アップトゥデイトは新潟。
サナシオンは秋の東京か大障害に直行。
ニホンピロバロンもおそらく秋からの始動。
そう、王者不在の重賞なのだ。
ここを予定していた馬で次走報がアナウンスされたのは、私が把握している限りでは長い休養から復帰するマキオボーラーのみだった。
千載一遇のチャンス。
相手は休み明けのマキオボーラーだ…

と算段していたら緊急事態が発生した。
主戦の森一馬騎手が開催中に負傷してしまったのだ。
レースまであと一週間。
軽症でなおかつ来週の騎乗が可能であることを祈るより他なかったが、月曜の時点での想定は空白。 
では誰が乗るのか、元の主戦である植野貴也騎手にはクリノダイコクテンというお手馬がいるので望み薄い…とやきもきしていたら、水曜日の調教には高田潤騎手がまたがっている。
なるほどそうきたか。
得心するとともに感心し、同時にデジャヴも覚えていた。
アップトゥデイトのときに感じた代打騎乗にまつわるあれこれを、まさかこの馬でも味わうことになろうとは。
調教の段階から厩舎サイドと主戦騎手と馬とが三位一体となって実戦へ向かう障害競走において、乗り替わりはまさに致命。
しかしレースの特性上、落馬のリスクがより高いがゆえに致命となりうる乗り替わりは珍しいことでもないという矛盾と難しさ。
乗せて走る馬も、携わるスタッフも、障害騎手も、三者三様におそらくそういう怖さをもって臨むことになると思われる。
とはいえ小倉巧者の高田騎手。
よくぞ身体が空いていたものだ。
アラワシについても、こと障害競走においては乗り手を問う馬ではないイメージ。
森騎手も幸い軽症だったようで、今回の結果がどうあれ高田騎手にはニホンピロバロンがいるので、すべてが順調ならば今後はすんなりと元鞘におさまることだろう。
そんな先々のことを皮算用しつつ、いよいよ勝負のときがおとずれた。

 

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淡々と周回するメイショウアラワシ。
なかなかに味のある顔をしていて、彫りの深い二枚目半だと思っている。

 

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軽く鼻面を撫でていたところを撮り逃す…
この馬に限らず、師は管理馬とジョッキーをいつもさりげなく送り出す。

 

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ジョッキーが騎乗して気合が乗ってくる。

相手はやはりマキオボーラーだった。
いやマキオボーラーの相手がメイショウアラワシだった。
中段に位置どり徐々に押し上げ終盤にかけてしぶとく脚を伸ばす最善の競馬をもってしても、果敢に逃げた勝ち馬をついにとらえることができなかった。
着差じつに7馬身。完敗だった。
半信半疑。
侮っていた。
長期休養明けでああまで以前の実力そのまま、力通りに走るとは思わなかったのだ。
素養と質で跳ぶ障害競走においては備わった能力が心身の状態(おそらく多少なりともあったであろう不安要素)を大幅にカバーしうるのだろうか。
お手馬を知り尽くした障害騎手の機知とパートナーを信じる勇気、それに応えうる障害馬の力強さをあらためて思い知らされたのだった。

 

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人馬ともに嬉しい重賞初制覇となったマキオボーラーと平沢健治騎手。
ハードな調教にたえられたのもすごいの一言。
見事な逃げ切り勝ちだった。

ペガサス4、
グランドジャンプ3、
そしてサマージャンプ2。
本当に、こういっては何だが、一段ずつというのが実にこの馬らしい。
「火曜日に頼まれて水曜日にまたがった」という高田騎手が限られた時間と機会の中で当馬の特徴をつかみ素晴らしいエスコートをしてくれた。
「トモが緩く左右に流れるところがあるが、飛越がうまく、すごい素質を秘めている(要約)」との力強いコメントもいただいた。
急な乗り替わりについてはただただ残念という気持ちが強かったのだが、違うジョッキーがまたがってみて、それにともなう意見も聞くことができて、漠然とではあるものの違った角度から新たな面が見えたような感覚もあり、今ある中で最善の結果に至ったのだなぁというのが偽らざる気持ち。
これはもう、次こそは一着しかないだろう。
もしかして新潟にも来るかも…と期待していたら早々と放牧に出たようなので、大障害へ向けてどんなローテーションを組んでくるのか楽しみに待ちたい。
見たいのだ。アップトゥデイトとその陣営とはまた違った景色を、勝ち負けに至る過程を、信念のかたちを。 

メイショウアラワシ号とその陣営を、心から応援している。