うまいこといえない。

うまいこといえない人がつたないなりに誰かになにかを伝えるための場所。

夢をもらう、声をとどける

手紙を書いた。
興奮さめやらぬままにペンをとった。
どうしても今すぐに、感謝の気持ちを伝えたかった。

サウンドキアラ号が阪神牝馬ステークスを快勝した。
惜敗つづきだったこの地で並みいる強者たちをついにねじ伏せた。
得意の京都で誇る強さと何ら遜色ない、確かな末脚で。
燦然と輝く重賞3連勝。
2歳時からじっと好機を待ち、同馬と向き合い、しっかりと重賞戦線に乗せてきた陣営の尽力の賜物だ。
こんなにもがんばっているのだから必ずまた日の目を見る、いつかきっとその時はくると信じていた。
ついに大輪の花開いたのだ。
ふたたび夢の舞台、ヴィクトリアマイルへ。
抽選を待つ挑戦者としてではなく、優先出走権を得た今年は胸を張って向かう。
新馬戦でようやく出会えた愛らしい女の子が、そのときの予感をはるかに越えた力をつけながら頂点を見据えている。
ファンとしてこんなにも嬉しく誇らしいことはない。

彼女のような素晴らしい競走馬と出会えて、好きでいさせてもらえる。応援させてもらえる。
ただそれだけでいいのだ。
ともに闘うことはできないから、想像の限りを尽くして、慮って、せめて心だけは寄り添うつもりでいる。
見返りも求めない。
たとえうまく結果がともなわなくたって、無事に走り終えて帰ってきてくれさえすればかまわない。
信頼しているから。
私の中にあるもっとも純粋な愛といえる。
言葉に尽くせぬこの想いを、どうしたためれば、どれだけ伝わるだろう。

なぜここまでできるのか。想えるのか。
我ながら不思議であらためて考えてみたら、敬愛するジョッキーのことはただ想うだけだった過去へとすぐに思い当たる。
写真も数枚しか撮っていないし、手紙も書けなかった。
好きすぎて。畏れ多くて。
なにより勇気がなかったから。
できることはあるけれど、と思いながら、ただひたすら遠くから見つめるだけの幸せを味わい尽くした。
そうして年月が過ぎて、幸せな日々にピリオドは打たれた。
言うなれば、熟成した、いい後悔だ。
彼との出会いと別れが、私の競馬との向き合いかたを大きく変えた。
彼が常に示しつづけてくれた、馬と人とがともにある姿にこそ、私の憧れていたものがあるのだと。
そして心を開いたら新たな夢を見つけた。
その夢は彼との縁につながる身近なところにあった。
思い出と後悔が、年月と経験が、卑屈で臆病だった私に勇気を与えたのだ。

想いは伝えたい。
今いる場所で精一杯、その瞬間にできることをしたい。
想いを懸けられる存在と、奇跡のように出会えたのだから。
カメラを構え、ペンをとる。
ずっとあとになってから思い出を紐解いて笑えるように。
だからこれは自己満足だ。
誰かのためになる何かをしたいだなんて、それができない自分には何もないだなんてそんなこと、もうふり返って悩んだりはしない。
好きで応援したい。それだけでいい。

好きな馬の成長が嬉しい。
馬とともにある人の成功と、努力が報われて形になっていくさまの、なんと美しいこと。
そこにいたるまでの苦しい過程も、ままならない現実も、最善を尽くした先にあるものすべてがいとおしい。
競馬って難しいけれど、目をこらして見ているとちゃんと見えるのだ。
点と点がつながって線になって、馬と人、馬と馬、人と人とをつないで、いつしかターフに夢を描いていく。
輝く未来へと、彼女たちは道を切り拓いてきた。
私は後ろからそっとついていくだけ。
置いていかれないように、夢に依存することなく、自分の人生をしっかりと生きながら。
でなければ、全身全霊で闘う彼女たちを応援する資格は得られないと思うから。

夢見た府中へと帰る日。
もしかすると私はついていくことはできないかもしれないけれど。
たとえどこにいても応援のありかたはかわらない。
いまはただ、心からのおめでとうとありがとうを届けたい。
そして祈りたい。無事と最善を。
願わくば、長年の悲願を叶えられますようにと。

 

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