うまいこといえない。

うまいこといえない人がつたないなりに誰かになにかを伝えるための場所。

最上級の「ありがとう」

帰路につきながらその報せをきいた。
そのときはまだ気を張っていたのもあり「そうか、そうなのか、それはそうだ」といったん受け止めた。
無事に帰宅して、もう一度確認して。
旅先でレースを観たこと。
悔いはないけど競馬場へは行かなかったのだなぁとしみじみ思ったこと。
完走を見届けて、ああきょうも無事だったという想い。
逃げなかった、離された17着だったなぁという現実。
すべてを思い返しているうちに涙が出てきたのだった。
わたしまだ競馬で泣けるんだ、という驚きだったり、
10歳のおわりまで走ったんだものね、というねぎらいの気持ち、
いろんなものがないまぜになって、少しのあいだそうしていた。
何分間か泣いた。
ベステンダンク号とのつきあいは長く、よく競馬場へ応援しに行った。
わたしがしんどいときにがんばってくれた、みたいな言いかたはアレなんだけど、
落ち込んでるときに障害レースに転向して健闘してくれたり、G1への出走が叶ったり、
大逃げを打って4着に粘ったマイラーズカップを観に行ったときは公私ともどん底にいた。
そういうとき、わたしは彼を応援しに行っているようで、わたしが彼に応援されに来ているんだと感じた。
そんなことが幾度となくあった。
競馬って、人生に似ている。
いいときよりも、そうでないときのほうが圧倒的に多い。
でも前を見て走らなければならない。
だからこそ、そこに「応援」がハマるのだ。響くのだ。
自分がするのか、されるのか。どっちでもよかったのかもしれない。
ベステンダンク号は本日のマイルチャンピオンシップをもって現役競走馬を引退すると発表された。
長かった夢がついに終わる。
彼にかける言葉はひとつしかない。
ベステンダンク、最上級の「ありがとう」。