うまいこといえない。

うまいこといえない人がつたないなりに誰かになにかを伝えるための場所。

ただ生きて、暮らしていく

逃げ恥(漫画)とはわかりあえなかったし星野源の歌は恋しか知らないけど、
意味なんかないさ暮らしがあるだけ
という歌詞に、今とても救われた。
人生に意味はない。あるとすれば後付けだ。生まれてきたから、生きて暮らしていくだけ。
それでいいんだと赦された気がした。

わたしは、腹を括ったこの先の人生に軽く絶望をしていた。
老いていく母と暮らしていく、この先の人生。
母は毎日酒を飲む。酒を飲んだら話が噛み合わなくなるし、次の日には話したことを忘れているし、早い時間から寝落ちする。
このごろそれらがパワーアップしてきたので、年寄りというのはそういうものだと思って、前みたいに怒ったり嘆いたりせず、適度に流して世話を焼いている。
もう酒のせいなのか老いのせいなのかよくわからない。
今みたいなゆるやかに世話を焼くみたいな行為は、いずれ介護へと変わっていくんだろう。
母はもうおばあちゃんなのだ。そらそうよ。孫だっているんだもの。
最近やっと認めた。強くて怖かった母は歳をとって相応に弱ってしまったのだと。
たぶん母はボケる。確信に近い予感がある。
わたしはくそまじめに思いつめる性格なので、たまりかねて母をぶん殴ってしまう前に施設へ入れるか行政に頼る。それまでがんばる。最善を尽くす。敬意と愛情をもって寄り添う。
あとはひとりで生きてひとりで無事に死ぬ。

あっ、だけど、いつまで弟も一緒に暮らしてるのかな。
どこへも行っていないのなら、おそらく変わらないであろう弟の世話も並行してくる。
母とわたしが末っ子の彼を甘やかしたせいで、なんにもしない男にしてしまった。責任を感じている。
今回の事故でいろんな話をしたし、多少は変わってくれるかなと期待したけど、どうも彼自身はあんまり堪えてもなさそう。歳をとった人間が変わることは難しい。
だから家事はずっとわたしの仕事だ。これからもずっと。
どうして? 不公平なんじゃない? いつまでつづくの? ずっと?
あなたは優しい人だけど、優しさだけでは一緒に暮らすのには不十分だよ、弟よ。
近ごろそんなことばかり考える。疲れているのかもしれない。

しかし、わたしは決めたのだ。これからは家と家族のために生きると腹を括った。
だから今までみたいに趣味に欲しいものにやりたいことにと謳歌する自由な時間は終わりにした。
以来、なにをするにつけても金に糸目がつく。
したいこと、行きたいところ、欲しいものが思い浮かんでも「でもお金かかるしなあ、我慢しよ」で打ち消してしまう。
あきらめ癖がついた。青春がひとつずつ終わっていく。わたしもまた老いていく。
一方で、金の話ばかりしてる人を見るといやしいなと感じる(そういう人が職場にいる)。
でも、そういう人とわたしになんの違いがあろう。
豊かで充実している人から見れば、好きなことに金と時間と情熱を費やせない人生もまた矮小でいやしいのではないか。そんなことさえも考えてしまう。
SNSで知り合った人たちはみんな豊かで充実しているから、こんな自分を恥じてしまう。
だから遠ざかった。ふりかえれば学生時代の友人らから逃げたのも、ひとりだけ職は安定せずパートナーもいない自分がみじめだったからだった。

いやしくて、小さくて、なんにもない中年になってしまった。
そうまでして、わたしが生きる意味とはなにか。
家と家族のためにただ生きて死ぬのか。
でもそれは母が子のために生きてきた半生でもある。
順番がまわってきたのか。それとも報いなのか。
母が誇れるいい娘になれなかった、失敗作になってしまった罰なのか。
母はわたしに何も望まなかったけど、ほんとうは結婚して子を産んで欲しかっただろう。
否、自分が離婚をしたから、したくなければしなくていいとも思っているだろうけど。
わたしは自身の性質ゆえに他者との暮らしを望まなかった。
ともに暮らしていくことを望んだ相手が家族だった。だから腹を括ったのだ。
だけど、それがこれなの? という気持ちに正直なってもいる。
先が長い。終わりが見えない。夢も希望もない。
人生ってこういうものなのか。うまく生きられなかったツケなのか。

わたしは何を望んでいるのか。
意味がなくても、ただ平穏に暮らして、ただ生きて無事に死にたい。家族にもそうであってほしい。
豊かさとは金だけではないはずだ。金はぜったいに必要だけど、だからといって必要以上にいやしくなることはない。
生きることは難しくて苦しいけれど、死なずに生きてきた自分をまず赦したい。前向きに生きようと思えている今の自分を卑下するのもやめたい。ちょっとは好きなこともしたいし、自分の楽しみだって持ちたい。
家のために、家族のために。
わたしが背負わなければと思ったし、そのつもりでいるけれど、気負うことはやめようと思う。
ちょっと疲れた。しんどかった。ひとりでやるのには限界がある。だから家族がいるのだ。
わたしはただ暮らしていく。自分のために。