うまいこといえない。

うまいこといえない人がつたないなりに誰かになにかを伝えるための場所。

グレーのまま生きていく

冬から春にかけて心の調子がすこぶる悪くなる。
ので成人してからはとくに、うれしいたのしい誕生日!みたいな年があった記憶がない。
今年も例に漏れずコロナ禍でわやくそになった。
外に出られず、仕事にも行けず、働いてないから何をしてても後ろめたい。
何もする気になれなかった。ひたすらブログを書いていた。不思議とそれは後ろめたくなかった。
時間はありあまるほどあったのに積んだ本や録画はほとんど手つかずのままだった。タカハシさんのよるドラとか(これはもう完結してから一気に観ようとおもう)。
もはやスマホと向き合うくらいしかすることのない時間の中でふと目にとまったのが、ずっと読みたくて読めなかった本だった。
ありがとうKindle、ありがとう青空文庫

はたして濃厚接触者としての不毛な時間は、ツルゲーネフのはつ恋によってあっというまに濃密な時間に塗り替えられたのだった。
しなびた心がみるみるうちにハリをとり戻していくのがわかった。読書ってよいものですね。
これはやべー、生涯のトラウマになるやつやぞ、と避けて通ってきたのも、思いたっていま読んだのも大正解だった。
もうちょっと早かったら、主人公の父親にめちゃくちゃ腹が立ってたと思う。息子の想い人に手を出すんじゃない。
ジナイーダにも、この女なんなん、とめちゃくちゃ腹が立ってたと思う。もてあそびながら主人公にも依存するなんて勝手すぎる。やめてあげて。
でも、それができなくなってしまうのが恋なんでしょうね。だったらしょうがないね。
どちらにも、もちろん主人公にも共感しながら、むさぼるように一気に読んでしまった。
もうこのひとたちのことは生涯忘れられない。もどかしくもいとおしいひとたち。
この物語にのめり込めたのは、わたしにも父への屈託があったから。
気持ちなんてきれいに割りきれるものではないし、問題のすべてが解決するわけでもない。
矛盾したまま、わだかまりを抱えたまま、グレーのまま生きていく。
年をとったらそうそう怒らなくなるし、だいたいのことは赦せるようになるから。
はつ恋も、加齢と赦しの物語だった。
ああ、いいお嬢さんだったなぁ、ジナイーダ。おもしろいヒロインだった。
名前も、とても美しくて好きだ。
もしもいま復刻版かなにかでこの本にカバーイラストがつくのなら、潜熱の野田彩子さんで見てみたい。
見たいぞ、野田彩子さんのジナイーダ。

さて、ぼちぼち外へも出られそうだ。
いまから薔薇色にはなりはしないだろうけど、まあグレーでもいいか、というくらいの勇気はわいてきた。