うまいこといえない。

うまいこといえない人がつたないなりに誰かになにかを伝えるための場所。

わたしの断髪式

どうしてこんなに、やりきれない。
男の子っぽい髪型にしたからといって男の子になるわけじゃない。
髪を短く切っても女性らしさが損なわれるわけでもない。
ボブにしようがベリーショートにしようが、わたしはわたしだ。
わたしは、わたしらしくなりたかった。
それをやんわり否定されたような気がして、一晩たっても、まだちょっとやりきれない。

担当してくれたのは男性の美容師さんだった。
伸ばしていた髪がストレスになっていたわたしは衝動的に近くの美容院を予約した。初めて行く店だった。
イメージを伝えて「とにかくめちゃくちゃ短くしたいです!」とお願いした。
けど冒頭だ。
どうみてもボブに仕上げようとしてるから、違う違うそうじゃそうじゃない、とお願いしてようやく仕上がったというわけ。
「男性っぽくなっちゃいますよ、本当にいいんですか?」
「いいですもっともっと」
このやりとりを二度した。
とても不思議だった。
髪を短く切るのがそんなに怖いんだろうか。
でもこんなことは、よくよく思い返してみればこれまでに何度もあった。
髪を短く切るたびに、たしかにあった。
傾向的に女性の美容師さんはわりと躊躇なく切ってくれて、男性の美容師さんは多少なりとも躊躇する気がする。
女性の髪をつめることを男性は本能的に禁忌と感じたりしてるのだろうか。
女性の男装的なものを男性はタブー視するのだろうか。
なんてことをぼんやり考えていたんだけど、まあ単に「切りすぎ!」「イメージと違う!」ってよく言われるんだろうなあ。
だからちょっとずつ切るんじゃないかなと。
そうですよね、クレーム怖いですよね。お客さんを悲しませるのは悲しいよね。
美容師さんって大変な仕事だ。頭が下がります。髪だけに。

前髪を作って、耳をぜんぶ出して、またコンパクトな頭に戻った。すごく気に入っている。
髪を伸ばそうと決めていた。
顔タイプに合った、ザ・ソフトエレガントなヘアスタイルにしてみようと意気込んではみたものの、完成途上のそれはどうみてもわたしらしくなかった。
なんだか大人っぽいというよりも陰気に見えてしまうのだ。
気に入ってなかったから、我慢や納得のいかない気持ちが表情にもあらわれていたんだろう。
わたしがわたしらしくノンストレスでいられるのはやっぱりベリーショートしかない。
切って確信した。
結末はハッピーエンドなのになんとなくモヤモヤするのは、べつにわたしは男の子っぽくなりたくて髪を切りに行ったわけじゃないからだ。
そんなの言葉の受けとりようでしかないと言われればそれまでだけど、切ってくれる人にそう言われたら「ええ…なんでそんなこと言うの…」と思ってしまうのも仕方ない。
切ってくれる人に「男の子っぽくなったら何がだめなんですか?」「髪を切ったところで男性にはなりません」と言い返せるほどわたしは強くない。
ましてや自分の価値観やら相手の言葉に乗っかってつっかかりたいわけじゃない。
だいいち、わたしはそこまで子どもじゃない。

とても気に入りました、ありがとうとお礼を伝えてそそくさと帰ってきてしまった。
そんな言葉で相手のモヤモヤが晴れたかどうかはわからない。
モヤモヤしてるかどうかすらもわからないけれど。
今にして思えば、逆にわたしから訊けばよかったのかなあと思う。モヤモヤしないために。
切ってくれた人にとってはアリだったのかナシだったのか。
「どうですか、これすごく似合ってませんか?」ってね。