うまいこといえない。

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キレイキレイの魔法

キレイキレイのにおいが好きだ。
泡のが出てからはずっと泡のを使ってる。
仕事から帰ってきてキレイキレイするといっぺんに緊張が解ける。
まさかそんなキレイキレイを、手をキレイキレイする以外の用途で使いたおすことになるなんて。

連休前半、ひとりの自由を手にしたわたしは取り憑かれたように家事をしていた。
家事というより掃除洗濯整理整頓、レイアウト替え。
同居人がいるとお互いに気を遣うからできない。
だから年に一度は狙いすましたようにひとりになって打ち込む。
家仕事というより趣味みたいなもんだ。
好きなのだ。工夫することが。
家の中がきれいになって居心地よく暮らせるようになることで、心も体もととのうのだ。
こういう仕事に向いてるのかもしれないけど、こんな大変なわりになあなあになりがちな家事は自分にとって身近で大事な人のためだからこそ、すすんでやりたいと思えるのだ。
たぶん自分で思うよりずっと、人のために何かをするのが好き。
だからほんとは恋愛と結婚をして家庭を持ちたいと思えたらベストだったんだろうね。
そこにわたしの望みはなかったし幸せも見えなかったから、今までどおり家族や友だちや自分自身をささやかに満たしていくのがいい人生なんだろう。
まじめにそういうことも感じつつ、キレイキレイのポンプを押しつづけていた。

そう。キレイキレイなのだ。
家事も後半戦にさしかかろうというタイミングで、カビキラーもハイターもマジックリンも尽きた。
どうしよう。もうウタマロ石けんしかない。ウタマロは洗濯物の手揉み洗いや靴用だからこのミッションには向いてない。
最寄りのセリアとダイソーには一日に何度も行ったり来たりしてたし、今はきれいにしながら片すことにめちゃくちゃ集中してたから外へは出たくない。この集中力を切らしたくない。
ままよ。
キレイキレイしよう。
すると落ちる落ちる、あらゆる汚れが。
そら手の汚れも落ちるよ。
油もホコリもヤニも、落ちすぎてちょっとこわい。
これ手洗いの洗剤ですよね?
ほんとに手を洗ってもだいじょうぶ? 洗う力が人間には強すぎない?
でもキレイキレイで手が荒れたことはない。
人間って強いのだなあ。いや、キレイキレイが人間にだけは優しいのかもしれない。
すごいぞキレイキレイ。
これは魔法だ。
禁じ手っぽいのもそれっぽい。

なんにせよその日はほぼキレイキレイで乗りきった。
安らぐにおいで家事は捗り、翌日はもう使わずに事足りた。
足りないもの欲しいものを買い足したり、最後の仕上げに掃除機をかけて、ざっくりと水拭き乾拭きをして無事にグランドフィナーレを迎えた。
楽しかったなあ。ひとりの自由も、人と暮らすための家事も。
これがあるからわたしはもっている。
そういえば、ずっと昔から置いてたキレイキレイを母が最近やっと使うようになったみたい。
新しい物事を採り入れるのにあんまり積極的でない人で、価値観がかたまってて、そこから外れるものは目にも頭にも心にも入ってこないみたい。
わたしとはまるで正反対の母。そこがもどかしくもあり、愛すべきところでもあり。
そんな人だからず〜っと手洗いには牛乳石けんだったのだけど、わたしがキレイキレイを台所にも置いて使うようになったから、いつのまにか気づいたみたい。
「こんなのあったんだ。そういえば前からあったね。ぜんぜん目に入らなかったけど、いいにおいするね」
ええ〜っ、遅いよ。でも嬉しい。

 

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