うまいこといえない。

うまいこといえない人がつたないなりに誰かになにかを伝えるための場所。

赦せない父と自分自身について つらつらと

朝ドラのあらすじをきいて、ああぜったい観られないつらいから、と思った。
ドラマの良し悪しのはなしじゃない。
子が母を拒絶し、母が子を手放した話なんてつらすぎる。
物語の中でまで傷つきたくない。
わたしは父に手放され、父を拒絶した子どもだった。

父の浮気が本気となって両親が離婚し、小学生だったわたしは弟たちとともに母に引き取られた。
子どもの頃は少しも傷ついてはいなかった。つらいとも感じなかった。
たぶん母子ともに生きることに必死だったから。つらいのは母だと思っていたから。
子どもが傷ついていると母に思わせたくなかった。
やがて生活が落ち着いて、父との交流が復活したあたりからその気持ちが変わりはじめていった。
弟と、父の義理の子が同じ高校の同級生になったのがきっかけ。
父は近所に新しい家庭を持ち、連れ子ができ、いつのまにか腹違いの弟が生まれていた。
わたしと弟たちはときどき向こうの家に招かれ、ご飯を食べるようになった。
父の新しいパートナーは母とは正反対のタイプの女の人だった。
わたしは父の新しい家族が嫌いではなかったし、向こうもそうだったと思う。
断絶されていたもの同士の縁がつながり、出会うはずのない相手と仲良くできるのなら、これでいい。
弟たちも楽しそうだし、これでいいのだ。あとはわたしが納得できれば。
納得はできる。でも受け入れられなかった。どうしても赦せなかった。子どもの頃に捨てられたことを。いちばん一緒にいてほしかった時に家族からフェードアウトしたことを。
捨てておいてまた仲良くしたいなんて、都合がよすぎる。
自分の都合で家族を裏切って捨てたのに、自分から父親役を降りたのに、つらい時期を一緒に生きることもしてくれなかったのに、今さら父親面をして、いいとこどりしてめでたしめでたし、とするのに虫酸が走っていた。

向こうの家族とのやりとりは楽しかったが、いずれ壊れるのがわかっているいびつな関係だった。
誰もが何かしら我慢をしあっていたのだと今は思う。
わたしはあの人たちのことは好きだった。
でも、好きだから一緒にいられるわけでもない。すべてが帳消しになるのでもない。
それはそれ、これはこれだ。
恋愛も友情も人間関係も、そういうものなのかもしれない。
父と母の愛も、そういうものになってしまったのかもしれない。
母は、父が父であることに変わりはないのだからしたいようにしていいと言ってくれたが、内心ではわたしと同じように悔しさと憤りを覚えていた。
そんなのあたりまえだ。
わたしは、ずっと一緒に生きてきた母の心に寄り添っていたかった。

悩みぬいたすえに、成人したわたしは父との縁を切った。
るいのアイヘイトユーよりもっとひどいことを言って、父を拒んで、捨てかえした。
あなたに想われるのがつらい、一生赦せないしもう関わりたくないと。
望みどおり、父とのやりとりは途絶えた。
ただ一度、弟の結婚式のときに顔を合わせただけ。
縁は切れたはずなのに、いまだにあの頃の苦しみがずっとまとわりついている。
むしろ歳をとるにつれてさらに苦しくなっていく。
世の中というもの、男というもの、女というもの、人間というもの。
結婚と不倫と離婚。男女の愛。気持ちが移ろうこと。愛が熱して冷めること。
子どもの頃にはわからなかったことがわかるようになって、やっぱりどうあがいても赦せないという気持ちが強くなっていく。
わたしは本当は傷ついていたのだと自覚してしまってから、子どもの頃から押し込めていたやり場のないつらさが今さらになって自分を追いつめてくる。
わたしは両親の愛から不信や苦しみしか得られなかった。
それが傷となり、コンプレックスとなったのか、わたしはどうやら普通の人生を歩みそこねてしまった。

ドラマのとんびを観て悲しくなった。
父がヤスさんならわたしはこんなにも淋しい思いをしなかったのにと。
恋愛の漫画も小説も読めなくなった。
男女の愛など絵空事としか思えなくなったから。いずれ心変わりする男の人のかたる愛など信じられぬ。心変わりせずともたわむれに女の人と遊べたりもするのだ。
父が母を裏切ったように、わたしも愛した人にいつかは裏切られる。
わたしは父と母の娘だから、誰かと結婚したとしても何かの拍子で自分か相手を赦せなくなって離婚をしただろう。
わたしのような子どもをぜったいに作りたくなかった。
だから恋愛も結婚も出産も心から望めなかった。
人としていびつな自分に、人を愛したり、人に愛されたり、人を育てることなど、できるとは思えない。
ふりかえってみれば、わたしはまともな交際を一度もできていなかった。
男の人を好きになったことはある。自ら求めたこともある。結婚を前提につきあったこともある。
しかしわたしを好きだと言う男の人はいつもわたしを服従させようとした。わたしにそういう隙があったのだろう。
わたしはわたしで、結局のところは、父から得られなかった愛を男の人に求めていたのだろう。
うまくいくはずがなかった。

気がつけば男性不信だし、大河ドラマと冒険ファンタジーくらいしか安心して手にとれる物語がなくなっていた。
物語の中でまで、勝手に傷つく。
現実の世界では、幸せな家庭に恵まれた人と比べて勝手に苦しくなる。
それはわたしを捨てた父のせいだろうか?
父を赦せないわたしのせいだろうか?
父を赦せないのはわたしが子どもだからだろうか?
子どもだから男の人を赦し、信じ、愛せないのだろうか?
どれも正解な気もするし、それは違うと言いたい気もする。
わたしの心にどこか欠陥があるのかもしれない。
だとしたら今からでも、カウンセリングにでもかかるべきだろうか?
ずっと道に迷って、どこへも行けないでいる。
どこへ行きたいのかもわからない。
父に捨てられた自分を自分自身が赦せない。いちばん身近な異姓である父に捨てられた事実が、男の人を愛する意欲も、自分を肯定する気力も奪ってしまった。
なぜ生まれてきたんだろう。
捨てられるのなら生まれてきたくなかったし、赦せないのなら生きていたくないのにね。