うまいこといえない。

うまいこといえない人がつたないなりに誰かになにかを伝えるための場所。

四十の扉が開いて

これまでは女でも人でもなかった。
誰かに選ばれなかった、誰も選ばなかった、子を産めなかった、そんな願いを抱けなかった自分は女じゃない。
才能もなく何者でもなくただ死んでないだけ、人でもない。
生物として繁殖もできず、成人として社会に貢献もできず、子として親孝行もできなかった。
ずっと後ろめたくてみじめで、生きているのが恥ずかしかった。
ひとりで人生を楽しんでいる他人の生き方には心から素敵だと思えるのに、自分のことは同じようには思えなかった。
自分を赦せなかった。
生まれてきたくなかったとすねながら生きてきた。
しかし、そんなわたしにも四十の扉が開いた。
悟りというものがあるのだとすれば、まさにこれだと確信した。
不思議な体験だった。
誰かに選ばれなくてもわたしは女性だし、世間に認められず誇れるものがなくてもわたしは人間だと、その日を境にスッと納得ができた。
だから好きに生きていこうと。
普通の女らしさや体裁を気にして、万が一にも誰かと縁づく可能性を頭の片隅に置きながら、服やメイクを選ぶのをやめた。
もちろんTPOには合わせるし、女らしく装うのが楽しい時もあるけれど、そうでないときは好きにする。
わたしはデニムとスニーカーをはいてジャケットを羽織るのが好きだから。
髪もうんと短くした。コンタクトレンズをやめてメガネにした。
もう誰かを選ぶことも、誰かに選ばれることも、誰かとペアになることも、子を産む可能性もないだろう。
四十という数字があちらとこちらの線引きをしてくれたのだった。
だから、わたしは好きに生きて死ぬ。
ようやく腹が決まった。